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4.口承文学テキスト(応用編)
(1)原文が確認できないもの
金田一京助や知里真志保の著作でも原文が確認できないものはあります。しかし、文学者(作家)の著作や紀行文など商業出版の場合、出版上の都合でかなり思い切った翻訳がなされることもあり得ます。特に歌われたテキスト(叙事詩や神謡)が散文体に訳される際に、かなりの変更が加えられた可能性があります。
萱野茂 『炎の馬』 すずさわ書店。1998年(新装版)。入手可。税込定価2100円。旧版は1977年。1950年代以降、採録したアイヌ口承文学を翻訳したもの。彼自身がアイヌ語と日本語のバイリンガルであり、翻訳が問題となるわけではありません。録音つきの『萱野茂のアイヌ神話集成』(ビクター)が出版されているので、資料としてはまずそちらを参照するとよいでしょう。
萱野茂 『アイヌの昔話 ひとつぶのサッチポロ』 (平凡社ライブラリー) 平凡社 1993年。入手可。税込定価918円。電子書籍ebooksでも入手可(税込630円)。注意点は上記と同じ。こちらは1話のみアイヌ語原文がつけられている。アイヌ語話者自身の手によるアイヌ語原文の入手しやすさ、という点では知里幸恵『アイヌ神謡集』以来かもしれません。
山本多助 『カムイユーカラ アイヌ・ラッ・クル伝』 (平凡社ライブラリー) 平凡社 1993年。入手可。税込定価897円。電子書籍ebooksでも入手可(税込630円)。山本多助はアイヌ語普及活動の先駆者です。彼は独自のアイヌ語論を展開していましたが、そちらは言語学的には問題があるといえましょう。彼自身はアイヌ語学者ではなく、文学者というべきであり、さまざまな実験的な試みを行っています。
更科源蔵 『アイヌ民話集』 みやま書房 1981年。絶版。同書房には更科源蔵の「アイヌ関係著作集」というシリーズがあり、そこには『アイヌ民話集』『アイヌ神話集』『アイヌ伝説集』も含まれている。『アイヌ民話集』はよく知られた伝承集で、それまでに複数の版元から版を変えて出版されていました。内容、細部が版によって少しずつ異なります。原ノートの一部が北海道弟子屈町立図書館に所蔵されており、整理・アイヌ語原文公開が待たれます。
ジョン・バチェラー著 安田一郎訳 『アイヌの伝承と民俗』 青土社 1995年。入手可。税込定価6932円。原書はちょっと入手しにくいので翻訳がいいかもしれません。すでに何度か翻訳されており、図書館でBatchelor, Johnを検索するとヒットするかもしれません。著者はある程度信頼しうるアイヌ語資料を刊行した最初期の研究者(宣教師)です。彼の辞書はいまでも最大収録語数をほこります。
(2)再話されたもの(準備中)
絵本や漫画などでは、翻訳以上に細部の改変が行われがちです。また、絵にする際にしっかりした考証を行うのは大変な作業です。したがって読み手の側にも注意が必要となります。