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1.テキスト集(日本語/一般書)

 

『ギリヤークの昔話』 (全1巻)。中村チヨ口述、ロバート・アウステルリッツ採録、村崎恭子編訳。表紙・挿絵イラストは砂澤チニタ。北海道出版企画センター1992年刊。入手可。

 この分野では、現在新刊書店で入手可能なほとんど唯一の市販本です。語り手は旧日本領樺太で育ち、戦後北海道に「引き揚げ」た女性で、本書の昔話は全話が日本語で語られたものです。もとの語り口(日本語樺太方言は北海道方言によく似ています)を生かしたテキストとなっています。この語り手の特徴としては、きわめて簡潔に話す、ということがあげられます。つまり、他の「細部までしっかり話す語り手たち」に比較すると、むしろ「あらすじ」のような印象を受けます。採録者のロバート・アウステルリッツは言語学者で、ニヴフ語・ニヴフ口承文学に関する論文をたくさん書いた人です。

 

『北の民俗誌 -サハリン・千島の民族-』 日本民俗文化資料集成 第23巻 谷川健一責任編集 三一書房 1997年。定価11000円。入手可。

 服部健『ギリヤーク 民話と習俗』をはじめ、重要な文献がまとめられたお得な一冊。基本的な文献集です。こういう本がいつでも手に入る日本の出版界はすばらしい。ニヴフに限らず、ウイルタ民族、サハリンのアイヌ民族の伝統文化に関する重要な文献が収録されています。解説と文献目録がついています。文献目録のためだけに買ってもいいくらいです。ただし、いくら解説が付されているといっても、古い文献を読む際にはそれなりの注意が必要です。文献によっては註なしの引用・孫引きなどがたくさんあります。

 

『服部健著作集 -ギリヤーク研究論集-』 (全1巻)。北海道出版企画センター2000年刊。限定300部。定価15000円。入手困難。

 日本国内ほとんど唯一のニヴフ語学者であった服部健の著作集。言語学にとどまらず、民族学的な論文も多く含まれ、口承文学テキスト集『ギリヤーク 民話と習俗』も収録されているお得な本です。ニヴフ語やニヴフ文化に興味があるなら必読書ですが、残念なことに入手はきわめて困難です。とはいっても言語学関係以外の論文の多くは、上記『北の民族誌』に収録されています。そちらを参照されるとよいでしょう。

 

『ギリヤーク 民話と習俗』 服部健 楡書房 1956年 絶版。古書として入手可。

 古い本ですが、上記の2つのアンソロジーに収録されていますので、簡単に読めます。ニヴフ語を専門とした日本人言語学者によるニヴフの昔話(伝説)集です。雑誌掲載のものに、書下ろしを加えたもの。ほとんどの話はポロナイスク周辺(西海岸含む)の出身者からニヴフ語で採録され、おそらく話者の協力を得て服部が日本語訳したもの。ニヴフ語原文は北海道立北方民族博物館に収蔵されています。シュテルンベルグなどによる先行文献から転載したものも一部含まれます。「なぞなぞ」など他の文献にみられない貴重な資料も収録されています。

 

『樺太ギリヤク語』 高橋盛孝 大阪朝日新聞 1942年 絶版。古書として入手可。

 著者は中国語を専門とする日本人言語学者で、簡単な文法解説、文化紹介、当時のポロナイスクの様子、昔話(伝説)、ニヴフ語語彙集といった盛りだくさんの内容です。ニヴフ語に関してはポロナイスクで短期間の調査しかしていないはずですが、非常にいい本です。何よりも全ての昔話(伝説)資料にニヴフ語原文(音声表記)が付いているという点がすばらしい。先行研究はあるにしても、いきなりの調査であの言語をいったいどうやって筆記したのか。ニヴフ語の記述自体は当時の先行研究を踏襲したものです。

 

『北方自然民族民話集成』 山本祐弘 相模書房 1968年 絶版。古書として入手可。

 著者自身がポロナイスク(敷香)で採録した昔話(伝説)が多数収録されています。著者は戦前の樺太庁博物館で館長をしていた人で、ほかにもいくつか北方少数民族関連の本を書いています。この本もニヴフだけではなく、当時サハリンに居住していたウイルタ、アイヌ、サハなど別民族も扱っています。ただしニヴフ関連の記述も、それだけで1冊の本になるくらいの分量があります。全て日本語訳のみ収録されています。おそらく一部はニヴフ語でも記録したはずですが、樺太からの「引き揚げ」の際に持ち出せなかったらしい。おそらくロシア国内のどこかにあるのでしょう。

 

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