サハリン州と日本国

サハリン州はサハリン島だけではない。クリル諸島、つまり北方領土と北千島が含まれる。州はこの両者がVの字をなすものとして考えられており、そのシルエットはサハリン人には幼少の頃からおなじみのものだろう。ちょうど日本人にとって、北海道から九州までの弧が日本列島であるように。北海道はちょうどVの字の軸のあたりに位置している。ちょうど扇の要にある邪魔な「外国領」なのだ。そして北海道北部は州の両翼たるサハリン島とクリル諸島をつなぐ中継点であるべき土地である。第2次世界大戦末期、スターリンは北海道を分割占領して北部をソ連領内に組み込もうと考えていたらしい。カムチャツカ方面を大陸と結ぶオホーツク渡海架橋である。もちろん、逆もまた然り。日本側から見ればサハリンはちょうど弧の延長上にあり、日本列島の一部を占有する邪魔な「外国領」である。サハリンとクリル諸島が領土であれば、日本海を取り囲み弧状に広がる島嶼国家が完成するはずだった。

日本語とニヴフ語はともになんとなくアルタイ的な諸特徴を備えた言語である。格表示、母音調和の痕跡、膠着タイプなどが共通する両者はさらにトゥングース諸語や韓国語とつらなるとも考えうるであろう。一方北海道のアイヌ語は今ひとつアルタイっぽくない。抱合現象や人称接辞の付き方など、カムチャツカ方面と似ている部分がある。さらに、その流れに乗って見直すと、ニヴフ語もこっちに属するのではないか、と思えなくもない。母音調和の痕跡は怪しいし、動詞の語頭子音交代は抱合現象と取れなくもない。もちろん、これらは学問的にはあまり意義のある比較ともいえない。比較言語学による「系統論」を除けば、言語同士の関係や差の大きさを測る方法は確立していないからだ。この地域で予想されるいくつかの人間・文化の交流ルートと、言語の諸特徴の分布が一致していない、というだけのことである。日本とロシアの考えるお互いの勢力圏が一致しないのと同じように。

(2004年9月5日)

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