小型湯沸し器


ホテルの部屋にあるコップはたいてい耐熱ガラス製である。これは客が小型湯沸し器(キピチェニク)を突っ込んで湯を沸かすためである。ハンダゴテみたいな格好をしたやつだ。ホテルによってはこれを禁止していることもあるのだが、禁止しても効果があるとは限らない。だから耐熱製にしておくに越したことはないのだ。お湯はデジュルナヤ(客室係)さんに頼めば持って来てくれるのだが、案外めんどくさいものだ。雑貨屋で100ルーブルもしないのだから、短期滞在でも買っておくことをお奨めする。

ガラス


ホテルの部屋にあるのは味気ない耐熱グラスだが、家庭では滅多にみかけない。ガラス製品は模様入りで特別なときに葡萄酒を飲んだりする。東欧のガラス製品は定番のインテリアで、普段は食器棚などにきれいに飾ってある。食器棚は台所ではなく、居間にどーんと構えていることが多い。シャンデリアに照らされて、まさに見せるためのガラスなのである。だからホテルでとは違い、お茶を飲むときは、ヤカンで湯を沸かす。あるいはサモワールか、プラスチック製の湯沸し器を使う。淹れ方は日本とはちょっと違う。紅茶葉をティーポットに一杯入れて思いっきり濃く出す。大きな取手つき湯呑(マグカップ)のそこにちょっとだけ入れる。それをお湯で薄めて飲むのだ。サハリン人はとにかくたくさんお茶を飲むので、一杯ずつ淹れてたのではめんどくさくてかなわないのだろう。それに案外これが美味しいのだ。

もちろん、ホテルでのように小型湯沸し器を使う人もいる。ティーバッグのお茶を飲む。なんだか味気ない。

十二支


ロシアでは十二支をみんなが知っている。つまり今年はトリ年だとみなが承知しているのである。インテリアショップや雑貨屋にはトリ関連のグッズが並んでいる。生まれ年による占いも盛んである。「イヌ年は才能がある」とかいう簡単なやつだ。さらに十二支と星座を組み合わせた占いもある。ブリヤートの仏教カレンダーもあちこちで売られているが、こちらにはさらに十干も記載されている。とはいえ、サハリンでは十二支の順番をみなが知っているわけではない。「ネ・ウシ・トラ・ウ・タツ・ミ…」というわけにはいかない。ちなみにロシアではウサギ年がなくてネコ年になっている。

客間


ロシア人もニヴフ人も、サハリンではホテルに泊まる習慣がないらしい。とにかく値段が馬鹿高いから、利用したくても実質上不可能である。どこかに出かけるときは、親戚宅か知人宅に泊まるしかない。お互い心得ているから、できるだけ客間を用意してある。とはいえ住宅難のサハリンには客間のない家も多い。そういう場合には居間に泊まらせてもらうことになる。居間にはソファが必ずあるが、ほぼ100パーセントが「ソファベッド」なのだ。ソファベッドはかなり高価だが、みんな頑張って買っている。どうも作りが良くないらしく、稼動部分がよく壊れている。

壊れている


サハリンでは何でもたいてい「壊れている」。車も、家も、ラジカセも、テレビも、みんなどこか壊れている。もちろん、いかなる事物も、永遠に新品ではない以上、いつかどこかが壊れるのは当然である。壊れたものは修理しながら使うが、ついには修理できないほど深刻なダメージを受ける。すると完全に使えなくなるまでそのままなのである。しかし、考えようによってはこれは当たり前なのだ。道具も人間も、どこか傷んでいるのは自然なことだ。ちょっと壊れただけで捨てて買いかえてしまう日本のほうが不思議な世界なのかもしれない。

ハイヒール


北海道でも今はミニスカートが流行していて、冬でも若い女性は太腿の素肌を冷気にさらして頑張っている。昼間でも零下10度以下になるサハリンではさすがに素肌は晒せないが、「伊達の薄着」に近い現象はもちろんある。なんといっても「ハイヒール」である。若い女性はほぼ例外なくハイヒールのブーツで頑張っている。もちろん防寒仕様で、内側にはムートンなどが張ってある。つまり「秋ものを冬も履く」のではない。とはいえ、凍ってツルツルの冬道でハイヒールは大変である。みなそろそろ気をつけて歩いている。いったい外国人旅行者は薄い帽子に派手な彩色の防寒着でいかにも軽薄に見える。だから帽子を買ったり、ショールを買ったり、さらには毛皮のコートを買ったりして現地の服装に合わせる。でも足元だけはなかなかそうもいかない。

(2005年2月16日)

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