幽霊


ロシア人は幽霊を怖がる。ニヴフ人も伝統的に幽霊や化物を怖れる。インテリも共産主義者もこれに関してはどうしようもないらしく、お供えをしたりして幽霊をなだめるしかない。そんな話を聞くと、ふと孤独を覚えてしまう。ロシア人も世代交代を重ね、ニヴフ文化を少しずつ学んだ。食文化などに関しては言うまでもなく、海や山への供物なども学んだ。そしてともに幽霊を気にしている。私も海や山へはなるべく挨拶をする。しかし幽霊とは!一緒になって怖がるべきなのだろうか。旅行者はどこまでも不遜で、不信心である。

生ボーカル


ちょっと高級なレストランでは生ボーカルが聞ける。そもそもはカラオケセットなのだが、キーボードも置いてあるのだ。そこでちょっと上手なお兄さんが給料をもらって歌っている。歌うだけだと何なので、サビの部分でキーボードもちょこっと弾いてみせる。設備のないところでは、ギターのお兄さんが現れることもある。大音量で胃袋もびっくり、落ち着いて食事をとる雰囲気ではない。しかも周りを見回すと我々のほかにはオランダ人が1組食事をしているだけで、あとは3組ほどのロシア人が葡萄酒を飲んでいるだけだ。閉店までこんな感じで大丈夫なのかこの店は?と思ったが、利益率は高いにちがいない。1人500ルーブル食べる客が5,6人いればいいのだろう。何せ葡萄酒はレストランで1本200ルーブルだが、同じものがスーパーで80ルーブル程度で買えるのだ。

昔話


ニヴフ人はふだん誰も昔話なんぞに興味を持たないようである。外国人が伝統文化の研究をしたり、昔話を録音したりしていると、みなが不思議がる。もちろんソ連時代から民族資料収集は行われているし、「伝統文化は素晴らしい」という命題は彼らにとっても公式にはおなじみのものである。それでも個人レベルで「なぜ?」と問われることがある。「面白いからだ」「好きだからだ」という以外の答えは難しい。「今記録しないと永遠に失われてしまう。未来の人々、あなたがたの子孫たちが聞きたいと思うかもしれない」と答えることもある。この言葉はどう受けとめられているのだろうか。「そこの子供たちだって興味持たないのに、孫たちが聞きたがるもんかい!」と笑われるばかりだ。そもそもニヴフ語やニヴフ伝統文化に未来はない、と考えられている。だが、それでも昔話を録音していると、いつのまにか30歳代くらいの娘や息子が戸口に立って静かに耳を傾けていたりする。50歳以下でニヴフ語を話せる人間はほとんどいないのだが、聴いて理解できるひとはかなりいるのだ。10年後、20年後に彼らがどうニヴフ語と関わってくるのか、ちょっと楽しみである。

運用能力


ニヴフ語で話していると、ロシア語で参加してくるひとがたまにいる。ロシア語しか理解できない場合、会話に参加しようがないわけだから、そのひとはニヴフ語を理解できるわけだ。しかし、話す能力が低いか、長年話していないためめんどくさいので自分からはロシア語で発信するのである。もちろんそこでこちらもロシア語に切り替えてもいいのだが、せっかくもう一人の相手とニヴフ語で話していたのだから、打ち切ってしまうのはもったいない。ニヴフ語が聞きたければ、こちらからもニヴフ語で話すことだ。もちろん、旅行者の運用能力は限られている。ニヴフ語もロシア語も不十分だったりする。だが通訳や、ロシア語しか話せない同行者は迷惑である。彼らはロシア語世界に属する。我々はその場にニヴフ語世界の雰囲気を何とか再現してみせなくてはならないのに。。

ハチミツ


ロシア人はハチミツが大好きらしい。アムール地方のハチミツは特産品らしく、サハリン島でも売られている。ユジノサハリンスクには「アムール産ハチミツ専門店」もある。確かに安いし、美味しい。しかし、ニヴフ人はあまり食べないようである。ひょっとすると伝統的なニヴフ文化ではハチミツを食さなかったのかもしれない。「ハチ」という単語は割とみんなが覚えているが、「ハチミツ」のほうはほとんど忘れ去られている。

(2005年2月16日)

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