『ニューエクスプレス・スペシャル 日本語の隣人たち』

白水社 定価3400円(税込み価格3570円)

2009.7.6

白水社より『ニューエクスプレス・スペシャル 日本語の隣人たち』が刊行されました。ニヴフ語(サハリン方言)をはじめシベリア、台湾などから、8言語を1冊にまとめた音声CDつき語学入門書です。ニヴフ語については丹菊が執筆しました(本HPのものとは全くの別モノです)。全国の書店でどうぞ。またネットでもお取り寄せ可能です。残念ながらちょっと価格は高めですが。

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収録されているのは以下の言語です。

セデック語(台湾)=タロコ語と呼ばれることもある言語です。

ニヴフ語(サハリン)=ギリヤーク語とも呼ばれていた言語です。

ホジェン語(中国)=「中国側のナーナイ語」ともみなされていた言語です。違う言語であることが判明しました。

イテリメン語(カムチャツカ)=カムチャダール語と呼ばれたこともある言語です。

サハ語(シベリア)=ヤクート語と呼ばれることもある言語です。

ユカギール語(シベリア)

エスキモー語(アラスカ)=ユピック語です(「エスキモー語」はイヌイット語とユピック語の総称であり、現在のユピック語話者の対外的な自称でもあります)。

ハワイ語(ハワイ)

以上の各言語の入門編3課ずつが本文の音声つきで収録されています。日本語話者からみた、あるいは言語学的にみた、各言語の特徴を3課でとらえられるように工夫がなされています。

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執筆者としてコメントを少々。

超マイナー言語のオンパレードです。イテリメン語、ユカギール語、ニヴフ語、ホジェン語の音源は貴重です。それも語学用の本文のような分かりやすい文を明瞭な発音でなんて、通常では考えられません。こんな「語学書」は滅多にでません。特にイテリメン語、ユカギール語、ニヴフ語などは、以下の事情から見ても、10年後再び同じような企画をしても実現は困難でしょう。

(1)作る側の動機の不足

言語学者は「語学書」を必要とはしません。自分の研究している言語の宣伝のために作る気になるだけです。ニヴフ語という言語について知ってもらいたい、話者たちの言語保存活動について知ってもらいたい、とか。ニヴフ人のおかれた状態について知って欲しい、とか。それも研究者が若いうちだけでしょうね。研究自体とは無関係な行為なので。

(2)研究者の数の不足

ニヴフ語にしても、ユカギール語、イテリメン語にしても、現在の若手(30〜40代)に続く学生がいません(海外にもいません)。今後はみなそれぞれ今より忙しくなるでしょうから、一般向けの本の執筆時間はとれないでしょう。別の地域の言語ならありえます(トゥングース方面とか)。

(3)話者人口の減少

話者が急減しており、今回の企画がぎりぎりです。今後は話者の高齢化がすすみ、音声CDの作成は事実上不可能になるでしょう。今回は本物のネイティヴスピーカーの協力を得ています。これはすごいことです。お金かけりゃできるってものでもない。情けない話、自分たちのフィールドワークに行く時間すらなかなかとれないのですから。今回の企画は運も良かったのです。

これらの言語の入門書は洋書ですら存在しません。読者と出版社のそろった、日本出版文化の懐の深さに驚くばかりです。

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