個人が特定されないアイヌ遺骨等の地域への返還手続きに関するガイドライン(案)
20170916
前文
アイヌ民族の遺骨および遺骨と対になった副葬品の不当な発掘・不適切な保管は学問の名において行われてきたものである。それを行ってきた学問界とそれを許容してきた大学は深く反省し、アイヌ民族の遺骨・副葬品の不当な発掘・不適切な保管について謝罪するものである。また、たとえ合意の元に発掘・保管された遺骨、あるいは偶発的な事情により保管されるにいたった遺骨であっても、その保管がアイヌ民族の文化的伝統に反すると判断されるならばアイヌ民族の文化的アイデンティティを尊重する形で返還されるべきである。
1.本ガイドラインの位置付け
本ガイドラインは「『民族共生の象徴となる空間』作業部会報告」(平成23年6月)及び「アイヌ遺骨の返還・集約に係る基本的な考えについて」(平成25年6月14日政策推進作業部会報告)を踏まえ、文部科学省が実施した「大学等におけるアイヌの人々の遺骨の保管状況の調査結果」(平成25年6月、平成26年1月更新)においてアイヌ遺骨を保管している旨回答した大学が、個人が特定されないアイヌ遺骨及び当該遺骨と対応する副葬品(返還時に係争中のものを除く。)(以下「地域特定遺骨等」という。)を、再埋葬を実施する団体(以下、再埋葬実施団体と呼ぶ)に返還するための手続に関して具体的な指針を定めるものである。
なお、個人が特定されていないアイヌ遺骨を保管する大学において個人が特定されたと認める場合は、速やかに文部科学省に報告し、「個人が特定されたアイヌ遺骨等の返還手続に関するガイドライン」を考慮して返還の手続を進めることとする。
2.本ガイドラインにおける遺骨返還の考え方
地域特定遺骨を返還する意向がある大学(以下「関係大学」という。)は、民法及び裁判例等を考慮し、返還と再埋葬(火葬の後の納骨を含む)を希望する再埋葬実施団体に返還するものとする。
3.返還・再埋葬に向けた手続
(1)
返還に向けた事前準備
○関係大学は、民法その他関係法令及び本ガイドライン等を考慮しつつ、申請者から返還の要請があった場合における地域特定遺骨等を返還するための手続を速やかに整備する。
なお、手続の整備に当たっては、地域特定遺骨等に係る返還申請から返還までの諸手続が、申請者等に過大の負担を与えないよう十分配慮するものとする。
○関係大学は、地域特定遺骨等を確実に返還するため、各地域団体等の同意に基づくDNA鑑定等による確認の実施について事前に検討し、必要に応じて規程を整備するものとする。
(2)
地域特定遺骨等に関する情報の公開
関係大学は、地域特定遺骨等に係る遺族のプライバシーを尊重しつつ、地域特定遺骨等に係る以下の情報をホームページ等に可能な限り公開するものとする。
@ 発掘・発見された時期
A 発掘・発見された場所
B 性別、推定年齢
C その他参考事項
(3)
関係機関による情報の周知等
○関係大学は、発掘・発見した場所が特定されている地域特定遺骨等については、
3.(2)に定める地域特定遺骨等に関する情報の公開を行った後、文部科学省に報告を行う。文部科学省は、ホームページ等で当該情報を周知するとともに、当該地域を管轄する市町村及び(公社)北海道アイヌ協会等関係機関に対して、当該情報の周知等の協力を求めるものとする。
○関係大学は、地域特定遺骨については、プライバシーへの配慮をしつつ祭祀承継者もしくは関係者(遺骨の所属していたコタンの構成員の親族等)に連絡を取るよう努め、積極的に情報の周知をはからなければならない。
(4)
関係大学に対する返還申請
地域特定遺骨等の返還を希望する団体は、関係大学に対して、当該大学の定める書類に、自団体が祭司承継者もしくは関係者を含む可能性があること、もしくは再埋葬実施団体としてふさわしいことを示す書類(構成員の一部の家系図、戸籍・除籍謄本等)を付して、地域特定遺骨等の返還を申請するものとする。
(5)
祭祀承継者(再埋葬実施団体)の確認
○3.(4)の申請を受理した関係大学は、地域特定遺骨等に関する情報と申請団体から提出のあった書類を総合的に勘案して、申請団体が祭司承継者もしくは関係者を含む可能性があることを確認することとする。
○関係大学は、申請団体が祭司承継者もしくは関係者を含む可能性があるか確認できないときは、次の優先順位を考慮しつつ、当該申請団体と協議の上再埋葬実施団体を決定する。
★「再埋葬実施団体」の決定に際しての優先順位
次の優先順位を設ける
1.地域特定遺骨の祭祀承継者を含む可能性がある団体
2.地域特定遺骨の所属していたコタンの構成員の祭祀承継者を含む団体
3.地域特定遺骨の所属していたコタンの構成員の親族を含む団体
4.地域特定遺骨にもっとも近い地域にある団体
また、再埋葬(もしくは火葬の後納骨)の実施能力がないと判断される場合には再埋葬実施団体となることができない。なお、再埋葬後におけるアイヌ式の供養の実施能力についてはこれを問わないこととする。
○関係大学は、申請団体が祭司承継者もしくは関係者を含む可能性があるか否かの確認を行う際又は返還に必要なDNA鑑定等を利用する際等には、必要に応じて、客観性・中立性を確保する観点又は技術的な助言を得る観点から、例えば、申請者と直接的な利害関係のない者であって、アイヌの文化を継承する者や相続に関する法制又はDNA鑑定についての専門的知見を有している者等により構成される第三者委員会等を設置して意見を聞くものとする。
(6)
再埋葬実施団体に該当しないことが確認された場合
関係大学は、再埋葬実施団体に該当しないことが確認された場合は、その旨を申請団体に通知するものとする。
4.返還
○関係大学は、申請団体が祭司継承者もしくは関係者を含む可能性があることを確認した場合には、申請団体に当該地域特定遺骨等を返還することとする。
なお、地域特定遺骨の返還に当たっては、尊厳をもって扱うよう十分配慮することとする。
○関係大学は、申請団体と協議の上、当該地域特定遺骨の返還について、引き渡し日時、場所及び方法等を決定することとする。
なお、申請団体との合意は、書面をもって行うものとする。
○地域特定遺骨等の返還に係る搬送に際し発生する費用については、関係大学と申請団体との間で協議することとし、原則として関係大学が負担することとする。
★「再埋葬実施団体」に返還する条件
1.返還された地域特定遺骨はすみやかに土中への再埋葬もしくは火葬を行うものとする。火葬後の遺骨は墓地または納骨堂に納骨する。
2.返還後は再埋葬もしくは納骨が完了するまで絶対に研究利用は行わないこととする。
3.埋葬法を考慮し、アイヌ民族の文化的アイデンティティと結びついた再埋葬を実施すること。
4.再埋葬後の供養については、遺骨の個人が特定されなくとも祭祀承継者と推定される人々が存在する以上、その意向を優先すること。
5.返還の目途が立たない場合
○いかなる団体からも返還請求がなかった地域特定骨等については、別に定めるところにより、北海道白老町に整備する「民族共生の象徴となる空間」に集約するものとする。
6.その他
○関係大学は、返還手続の実施状況について、文部科学省に随時報告するものとする。
○文部科学省は、関係大学からの報告を取りまとめ、内閣官房と協議の上、アイヌ政策推進会議及び同政策推進作業部会に報告するものとする。
○3.(1)に係るDNA鑑定等本ガイドラインに基づく返還に向けた手続に係る詳細、及び地域が特定されていない遺骨であっても現在大学が保管するものについてのDNA鑑定等による個人の特定の可能性や実効性に関し、今後、文部科学省において検討を行うものとする。
以上