「食べる」「好む」

「〜を…する」(1)

「〜が食べる」in'd、「〜を食べる」n'idのように、語形が異なるペアがあるもの

日本語では、

 「〜が…する」
 「〜を…する」

は「が」「を」があるから区別できます。例えば、

 「魚が食べる」
 「魚を食べる」

この2つの文は全く意味が違います。ですが、ニヴフ語には「が」「を」はありません。では、どうやってこの2つの文を区別するのでしょうか。実は、ニヴフ語の「食べる」という動詞には in'd インド「〜が食べる」、n'id ニッド「〜を食べる」の2つの語形があるのです。ですから、

 例1  c'o in'd 
   チョ インド 
   魚  が食べる 

 例2  c'o n'id 
   チョ インド 
   魚  を食べる

のように区別ができます。

もう少し詳しくいうと、in'd インドは「〜が食べる」、n'idニッドは「〜が〜を食べる」です。前者を「自動詞」、後者を「他動詞」と考えることもできます。つまりn'id ニッドは「誰が食べたのか」ということを表す名詞、つまり主語をおくことができます。

 例1         c'o in'd 
          チョ インド 
          魚  が食べる 

 例3  n'i  c'o  n'id 
   二  チョ  ニッド 
   私は  魚   を食べる 

 

このように、いくつかの動詞は2つの語形を持っています。あるいは「自動詞・他動詞のペア」がある、と考えることもできます。

ezmud エズムド「〜が好む」、smodスモッド「〜を好む」
idyd イドゥッド「〜が見る」、t'yrd トゥルド「〜を見る」
evd エヴド「〜が持つ、〜がつかむ」、vod ヴォッド「〜を持つ、〜をつかむ」
iγd イグド「〜が殺す」、xud フッド「〜を殺す」

いずれにしても、これらのペアは事実上一つの単語の2つの語形として使うことができます。

 例4 c'i qan  smod  lo?
  カン  スモッド ロ? 
  君は 犬  を好き かい? 

 例5 hηga n'i ezmud.
 

フンガ、

二  エズムド
  ああ、 私は  好きだ

 例6 n'i qan  smod.
  カン  スモッド
  私は 犬  を好きだ

このとき動詞の語頭子音が、目的語にあわせて変化します。第5課「連濁に似た現象」を参照してください。

 

例7 arak smod.
  アラック スモッド
  を好きだ

例8 c'aX c'mod.
  チモッド
  を好きだ

例9 n'i ja ramk vod.
   ラムク ヴォッド 
  私は 彼の  手 をつかむ 

例10 n'i c'Xar bod.
   二 チハル ボッド 
   私は 木の棒 をつかむ