「連濁」に似た現象

日本語には「連濁(れんだく)」と呼ばれる現象があります。例えば、「犬の小屋」を「の」を用いずに言うとき、

犬(いぬ) + 小屋(こや) → 犬小屋(いぬごや)

のように「いぬこや」ではなく「いぬごや」になります。2つの言葉がならんで「くっつく」ときに、後ろのことばのはじめの音が濁音になる、というものです。ニヴフ語でもよく似た現象があります。ニヴフ語の「テニヲハ」には「の」にあたるものがありませんから、いつでもこの現象が起きます。さらに、日本語は「清音→濁音」という変化しかありませんが、ニヴフ語はもう少し複雑です。日本語とはちがって、「前の言葉の終りがどんな音か」によって、後ろの言葉の最初の音が変化するのです。


(ルール1) 「前の言葉の終りが母音(a e i o u y ア エ イ オ 口を突き出すウ 普通のウ)または流音( l r r' いくつかの種類があるラ行すべて)、鼻音( m n η n' マ行 ナ行 鼻濁音 ニャ行 )、破裂音・破擦音( p t c k q パ行 タ行 チャ行 カ行 奥のカ行 及びそれらの濁音 b d d' g G)の場合、後ろの言葉の最初の音は、摩擦音( r s x X ファ行 ラ行 サ行 奥のハ行)になる」

n'ytk raf
ニュトゥク ラフ
私の父の

ja raf
ラフ
彼の

tol -roX
トル ロホ


(ルール2) 「前の言葉の終りが  摩擦音( r s x X 上記参照)の場合、後ろの言葉の最初の音は、破裂音・破擦音( p t c k q 上記参照)になる」

これはルール1の逆です。

tolf taf
トルフ タフ
夏の

t'ulf taf -toX
トゥルフ タフ トホ
冬の

 


「家」という単語にはそもそも taf/raf/daf (タフ/ラフ/ダフ) という3つの形があり、前にある単語の最後の音にあわせて選ばれる、と考えた方がいいかもしれません。そしてすべての単語が基本的に3つの形を持っています。

このような現象を「語頭子音交替」などと言いますが、これは所有表現、修飾表現でおきます。さらに動詞と目的語の間でもおきます。例えば、「飲む」という動詞はやはり、radtaddad(ラッド/タッド/ダッド)という3つの形があり、前にある単語(目的語)の最後の音にあわせて選ばれます。

arak rad
アラク ラッド
酒を 飲む

arak アラク 「酒」の終りが k ク、つまり破裂音なので、摩擦音始まりの rad ラッド になります。

c'aX tad
チャハ タッド
水を 飲む

c'aX チャハ 「水」の終りが X ハ、つまり摩擦音なので、破裂音始まりの tad タッド になります。


(例外) 

以上のルールに従っていない例が見られることがあります。 

qanη  カヌング 「犬」、eRlη エガルン 「子ども」、er'qη エシュクン 「〜の方向」などの語末の  η ング は摩擦音化をひき起こしません(このとき、後続の子音は濁音になります)。さらに、たいていの場合はその η ング が脱落してしまいます。

qan daf
カン ダフ
小屋

eRl -doX
エガル ドホ
子ども

へ(に)

la er'q -doX
エシュク ドホ
アムール 地方